“紋甲イカと正木さん蕪のグリル サルモリリオソース”
イタリアに5年住んでいたのですが、ほぼ毎日(初めの2年間はローマの日本料理店で働いていたため賄は日本食を食べていましたが、休日はほぼトラットリアで勉強を兼ねた食事をするようにしていました。3年はどっぷり、日本語もしゃべらないくらいの勢いの時期もありながら)その5年間に延べ何食のイタリア料理を食べたでしょうか?帰国して30年を経て、今こうして料理を作り続けていけている基礎体力のような、料理を構築する考え方のベースになっている経験をこの5年間で培ったと遅まきながら、つくづくこの頃になって改めてかけがえのない時間だったんだなあと実感しています。
幸せなことに、その期間に忘れられない食事の場面が数々あります。何かのタイミングで立ち寄った何件ものレストラン、研修させてもらったレストランの賄、友人宅でごちそうになった家庭の味、Alimentari(食料品店)やCOOP(スーパー)で購入した食材で自炊した料理などなど。勿論美味しくない料理であったり、いい加減に作られた料理の経験もそれ以上にあります。
あと、そのイタリアでの生活の中で過ごした土地、旅した地方の料理でも、イタリア人には当たり前に受け入れられている味付けであったり構成の料理でも、これは日本人には美味しいと感じれないって言う料理も数多く出会いました。勿論それは日本料理にも言えることでしょう。そういった今まで経験してきた、作ってきた料理のバランスシートのようなものが自分の中にあります。ただそれが実際今、現実でのうちのレストランに来店されるお客様に機能するようになってきたのにも数々の失敗がそのバランスシートに注釈として書き込まれていったので、今こうして具体的に自分の中で機能していると思っています。・・・30年かかりました。数々の失敗の賜物です。
紋甲イカのグリルは思い出深い素朴な料理。シチリアを二人で(由貴さんと)旅していた時に出会った料理です。シラクーサの港に面した市場の隅にポツンと一件だけ営業していたTavola calda(食堂)で、そんなに期待せず、その場所で営業している食堂はそこしかないからま。ここにしよう。くらいの気持ちでふらっと入ったのですが25年たった今でもそこで食べた、ぱっと見何の変哲もない料理のように思って食べ始めたのですが、いやいや。今でも時々その食堂の話になる思い出深い食事の一回です。
・茄子のグリルマリネとズッキーニのグリルマリネ
・カタクチイワシのトマトオイル煮
・蛸と酢漬けのピーマンとペペロンチーノ風味
・ピーマンのマリネ
・紋甲イカとイカのグリル サルモリリオソース
・鰯の丸焦げグリル サルモリリオソース
ほんとにぱっと見何の変哲もない料理だったのですが、僕たち二人にはショッキングなくらいシンプル。言ってみれば、そっけないくらい飾りっ気がない。それでいて美味しくダイレクトに素材を生かしていてこれがシチリアか!食の懐の深さを改めて感じる象徴のような出会いでした。
それがこの料理の根っこ。さすがに紋甲イカグリルしただけ。ってわけにはいけませんし、せっかく季節の野菜たちがある中でそれを合わせないわけはありません。特に、昨年正木さんに教えてもらった蕪のステーキは大のお気に入り。ちょうど今最盛期で寒さとともに甘みものってきています。それに香ばしくグリルした紋甲イカにはとっても合います。
|