清八でございます。今年もよろしく、お付き合い願います。今年の年賀状は、桃太郎さんにしました。(画像①)一昨年は「申年」でした。昨年は「酉年」でした。そして、今年は「戌年」です。某携帯電話会社のCMでもお分かりでしょうが、これで、お供が揃った年になるので、如何でしょうか?落語の桃太郎は、お伽噺の桃太郎とは違います。
子供が夜更かしして、なかなか寝ませんな。「いつまで、起きてんねん。早よ寝なさい。子供が遅うまで起きてたら、こわーい、お化けや、幽霊が出てくるぞ。さぁ、こわい、こわい。さぁ、おとなしい寝んねしぃ。お父ちゃんがおもしろい話を聞かしたるさかい、それを聞きながら、寝んねするのやで…。昔々、お爺さんと、お婆さんが、あるところに住んでたんや。お爺さんが山へ柴刈りにいて、お婆さんが川へ洗濯にいた。川の上から大きな桃が流れてきた。持って帰ってポンと割ったら男の子が生まれた。桃太郎という名前をつけたなぁ。その子が大きいなって、鬼が島へ。キビ団子(画像②)をこしらえて持たせてやると、犬と猿と雉とが出てきて、一つください、お供する。桃太郎さん、強いねんでぇ。えぇ、鬼が降参や、山のように宝物を出してあやまった。エンヤコラ、エンヤコラと持って帰って、おじいさんやおばあさんに孝行したっちゅうねん。なぁ、おもろいやろ。ケンちゃん、ケン坊……。寝てしもたがな。えぇ、子供というものは罪のないもんやなぁ……。言うてましたんは、昔のことでして。
「ケンちゃん、ケン坊…、寝んかい」「なんで」「なんでちゅう奴があるかいな。日が暮れたら寝るのに決まってるやないか」「寝むたいことないねん」「寝むたいことなかっても、寝え」
「寝むたいことなかっても寝えて…、そら君…」「君?親、友達みたいに思てるな。子供がそない遅うまで起きてたら、こわ~い、お化けや幽霊が出てくるぞ…」「へぇー、ゲゲゲの鬼太郎やポケモンが出てくんの、ほな、起きて遊ぶ」「どつくで、とにかく寝床へ入れ…」「寝むたいことない…」「寝むたいことなかっても、寝床に入って、眼ぇつぶってたら、ひとりでに寝むとうなって、寝てしまうのや」「そない言うけどな、寝むたいこともないのに寝床へ入って、眼ぇつぶってたら、もうろくなこと考えへん」「……子供の言うこっちゃないで。とにかく、寝床に入って、横になり、横に…。お父ちゃんがおもしろい話聞かしたるさかい、それ聞きながら、寝んねすんのやで」「そら無理や」「何が無理やねん」「話聞くんなら聞く、寝るなら寝る…聞きながら寝るてな、そんな器用なこと、できへん」「よぅ、ぐだぐだ言うのやなぁ。話、聞いててな、眠むとうなったら寝たらええのやないか」「ふ~ん、ほたら、やってみ」「親、噺家みたいに思うてるやろ。…昔、昔や」「何年ほど?」「何年…でも、えぇやないか」「なんぼ、昔でも、年号というもんがあるやろ……、元禄とか、慶応とか?」「そういう難しい年号も何も無い昔や…」
「年号…、無いのん。そら、よーっぽど昔の話…」「そやそや、ある所に…」「どこや?」「どこでもえぇやないか。親が、ある所言うたら、ある所や…」「おかしいで。ある所てなとこ、この世に無いがな。何ぼ昔でも、国の名前ちゅうもんがあったやろ。大和とか播磨とか…」「そういう難しい国の名前も何にも無かった時分の話やないか」「国の名前も何にも無い昔いうたら、よ~っぽど昔の話…」「そやさかい、昔々、言うてるやろ。お爺さんとお婆さんが住んではったんや」「お爺さんの歳は?」「歳、無い!歳の無い昔や」「そんな無茶言うたらあかんわ。何ぼ昔でも歳ぐらいあったやろ、一年経ったら一つやねんさかい」「うるさいやっちゃなぁ。はじめはあったんや、はじめは。せやけど、こないだの火事で焼けて無いようになってしもて…」「無茶言いないな、歳が火事で焼けたりせぇへんで、お父ちゃん」「うるさいやっちゃなぁ、ホンマに。お前みたいにそないゴチャゴチャ言うてたら、寝る間も何にも無いやろ。子どもは子どもらしく、ふぅ~ん、言うて、おとなしい聞ぃててみ。だんだん眠とぉなってくんねやさかい」「ふぅ~ん」「そいでえぇのや…。お爺さんは山へ柴刈りに行た」「ふぅ~ん」「お婆さんは川へ洗濯に行た」「ふぅ~ん」「川上から大きな桃が流れてきたぞ」「ふぅ~ん」「なぶってたら、どつくで!、アホ!とにかくな、川上から大きな桃が流れてきたな。それを家へ持って帰って、ポーンと割ったら、中から子どもが出てきたんや。男の子や。桃から生まれたんで桃太郎ちゅう名前をつけたな。この子が大きいなって鬼が島へ鬼退治に行く。お婆さんが、おいしいキビ団子をこしらえて持たせてやったら、犬と猿と雉が出てきて、一つ下さい、お供する。みな、揃うて、鬼が島へ攻め込んだな。犬は鬼の足にかぶりつくやら、猿は顔をかきむしるやら、雉は目を突くやら、鬼は降参や、堪忍して下さい言うて、山のような宝物を出して、謝ったんや。それを車に積んで、エンヤラヤ、エンヤラヤと家に持って帰って、お爺さんやお婆さんに孝行したっちゅうねん…どや、おもろかったやろ」「あんまり可哀相やから寝たろうかなぁと思てたんや。そやけど、アホなことばっかり言うさかい、だんだん目ぇ、冴えてきた」「何でやねん」「何で、て、そやないか、お父ちゃん。それ、桃太郎の昔話やろ」「そぉや、桃太郎さんの昔話や」「桃太郎てなもん、オモロないわ。わいら。もっと、こう恋愛もんかなんか…」「何を、生意気な事、言ぅとんねん、お前ら桃太郎で結構や」「お父ちゃん、何にも知らへんねん。こらなぁ、日本の昔話の中でも一番有名な話やねんで。世界的名作と言われてんねん。それを、あんな風に言うたら、値打も何もないがな。あれでは、作者が泣く…」「何が、作者や、アホ、お前ら何にも知らへんねん」「お父ちゃんこそ、知らへんねん。昔々、ある所、と時代や場所をハッキリさしてないやろ、あれは、わざとあないしたぁんねやで。と、言うのが、これを大阪の話にしてみ、大阪の子には馴染みがあってえぇか知らんけど、東京の子には分かれへんやろ。また、これを東京の話にしたら、東京の子には馴染みがあってえぇか知らんけど、田舎に持っていたら分かれへんがな。せやろ、日本国中、どこへ持って行って、どの子に聞かしても分かるように、昔々、ある所、としたぁんねん。こないしたら話が広がるやろ。お爺ちゃんとお婆ちゃん出てくるわなぁ。これはホンマは、お父さんとお母さんやねん。ぢぢ、ばばの濁りを取ったら、ちち、はは、になるやろ。つまり両親のことを言いたいねん。で、山へ柴刈りに行て、海へ洗濯しに行くわけにいかんさかい、川にしたぁるけど、ホンマは海が言いたいねん。山と海や。父の恩は山よりも高く、母の恩は海よりも深し、というたとえになったぁんねんで、お父ちゃん!」「へぇ~っ、なるほどなぁ。で、それからどないなんねん、それから?」「川上から桃が流れてきて、家へ持って帰ってポーンと割ったら、中から男の子が出てきた。出てくるかいなぁ。桃から子ども生まれたら、果物屋、やかましぃてしゃ~ないで!。人間のお腹から出た子が、子どものくせに鬼退治しに行くの、不自然やろ?せやから、神さんから授かった子っちゅうことにしてあんねんな。それから、三匹の動物、何でも、三つ並べてんのちゃうねんで…。犬は、三日飼うと、三年恩を忘れん…、言うやろ。こら、仁義に厚い動物や。猿は、猿知恵ゆうて、動物の中では一番知恵があんねん。雉、これは勇気のある鳥やなぁ。雉が卵を暖めている時に、蛇が体じゅうに巻きついても慌てもせんと、巻くだけ巻かしといて、あとでブチ~ンと弾き飛ばしてしまう、勇気のある鳥や。この三匹で、智・仁・勇という三つの徳を表わしたぁるねんで。お父ちゃん!」「そうかぁ、おい嫁はん、そんなとこで韓国ドラマ見てたらいかん。テレビ消して、この子の話、聞け。勉強になるわぁ。今度、参議院に出したろ…、それからどないなんねん?」「鬼が島、あんなもん、この世にないがな、せやろ。この世の中のことを鬼が島に例えてあんねん。渡る世間に鬼は無い、言うけど、考えようによったら、世間は、鬼ばっかりやで!わかってるか?お父ちゃん?…、ほんで、美味しいキビ団子ちゅうたやろ?あんなスカタン言うたらいかんわ。キビ言うたら、もぅまずいもん。五穀の中でもお米や麦に比べたら粗末なもんや。ぜいたくをしたらいかん、という教えが、このキビ団子や。世の中に出た時には、鬼が島の鬼退治をせんならん。その時に、贅沢をせんと、質素倹約して、智・仁・勇という三つの徳を身に着けて、一生懸命働いて、やがて鬼を退治して、山のような宝物というのンは、世間へ出て身に着ける、信用とか名誉とか、財産とか、そういう宝があるわ。そういぅもんを身に着けた立派な一人前の人間になって、親に孝行し、家の名前をあげる、という、これが人間として一番大事な道である…、ということを、昔の人が子どもにもわかるように、おもしろい話にこしらえてくれはった、よぉできた話や。それを、あんな言い方したら、値打も何にもないで!お父ちゃん!僕の前やさかい、えぇけど、こんなことよそへいって言うたら、あかんで!恥、かくさかい。親の恥は、子の恥、言うて、僕まで、つらいさかいな。よそいって、言わんようにしてな。な、お父ちゃん、お父ちゃん……、寝てしもたがな。今時の大人は罪が無いわ。」
この「桃太郎」のお話、確か、岡山県の中学校でしたか、道徳の教材に使われておりました。ただし、内容はずいぶんと異なります。「僕のおとうさんは、桃太郎というやつに殺されました。もし桃太郎が鬼にも家族がいることを知ったら、どうしたいと思いますか?」という異なる視点で物事を考えた授業だったようです。そやけど、元々の桃太郎に田畑を荒らしたり、焼き討ち・強奪、それから鬼一族の殺戮場面ってありましたっけ?私は、富国強兵の時代に変えられてしまった桃太郎を、落語の中で元のおとぎ話に戻そうとした、当時の噺家さんたちの発想力と伝承、にスタンディング・オベーションします。そうそう、岡山県ではなく、香川県には、女の子バージョンの桃太郎があったのだそうです。
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2018.1.15 清八