「ちりとてちん」?
実は落語の演目です。三味線の音色から取られた“微妙な”食材(?)「ちりとてちん」。
噺家の目から見た“食”の話題を取り上げてもらいます。さて、どんな話が飛び出すのやら・・・

「落語のネタ帳・食べ物編…その3」

 清八でございます。

 いつの頃からか、浜松市内、浜名湖周辺でも「ふぐ専門店」とか、ふぐ鍋あります、というお店が増えてきました。「ふぐは食いたし命は惜しし…」これも死語になっているかもしれません。ふぐの料理法が徹底していなかったり、調理師免許が必要で無かった時代は、 「当る」と言いまして、怖い食材でした。ですから関西では「てつ、てつ」と言いました。「てつ」は鉄砲の鉄です。「下手な鉄砲も数撃ちゃ当る」、これも死語ですね。大阪・船場のご大家の長男は親から食べるのを禁じられていたという時代もあったそうです。

 ある旦那さんが知人から「ふぐ鍋セット」をいただきます。いい具合に煮えてきたものの、どうしたものか躊躇していると、幇間(たいこもち)の茂八がやってきます。
「誰か相手がないかなぁ、と思っていたら、ええとこへ来たやないか。鍋がぐつぐつ言うてるから、 やってごらん」「いい匂いですが、これは何でございます」「食べたらわかる」「判るということは判っておりますが…」「てつだよ」「てつ、これは土鍋ですが」「てつと言ったら、ふぐじゃ」「ふぐ、ふぐはいけません、ふぐは…」「どうして…」「ふぐ食ったら、ふぐ死にます」「下手な洒落を言わんと、やってごらん」「いえ、旦那からどうぞ」「いや、お前が食べないと、気持ちが悪いなぁ」「旦那、今、何かおっしゃいましたか」「いや、私も初めてでなぁ。大丈夫だと言われても、万が一ということがあるからなぁ。誰かに食わしてみて、何でもなければ…食べようと…」「旦那、お人が悪いですなぁ、人を試験台にして」「しょうがないなぁ。お〜い、裏口がうるさいよ」「旦那さん、いつもの乞食が来て、動かないんですよ」「茂八、乞食にこれを食べさせて、何でもなければ…」「名案、名案、よろしゅうございます。へぇ、それでは私がこの丼に取りましてと……置いてきました」「どうした」「へぇ、喜んで表へ出て行きました」「後付けて見てこい。しっかり見てこいよ」「旦那、体が温まるというのは本当ですなぁ。裏の塀に寄っかかって日向ぼっこしながら、コックリ、コックリ居眠っております」「居眠ってるぅ。本当に居眠ってるのか、固まっているんじゃないだろうな」「大丈夫でございます」「そうか、じゃ食べよう。さぁ、食べよう」「へぇ、旦那、どうぞ」「いや、茂八から」「いえ、旦那から」「じゃ、こうしよう。一・二の三で一緒に食べよう」「一・二の三、お前は疑り深いな」「旦那こそ」「じゃ、こうしよう、お互いに目をつむって」「旦那、おいしいですな」「うまいもんじゃなぁ、ふぐは…」

食え食えと綺麗に食べてしまいまして、後は雑炊にして食べてしまいました。
「茂八、うまかったなぁ」「旦那、おいしゅうございましたな。こんなにおいしいものでしたら、もっと早くからいただけばと、惜しいことをしました」「まったくじゃなぁ、何、裏口が又うるさいが…」「あの、先ほどの乞食が、又、来ておりますが…」「茂八、うまかったとみえて、お代わりじゃと…」「へぇ、それでは私が…、これ、もう何にもないから帰れ、帰れ」「あの、先ほどのあれは…」「もう、みんな食べてしまって、おしまい」「からだのほうは何ともございませんで…」「何ともないぞ」「さようでございますか。そんなら私も安心をして、ゆっくりとちょうだいをいたします」

 亡くなりました、桂小南師匠が寒くなるとテレビ番組で演じられておられました。子供心に、おもしろい噺もあるもんだと感心して笑っていましたが、実際に食べられるようになってみると、噺の内容がよくわかるようになってきました。「ふぐ鍋」という一席でございました。

 来年は、「さる」年でございます。さる星のさる国のさるお方がさる国のさる大統領の茂八になっております。来年は、悪い事が「さる」年になりますように、お互いに、お疲れさまでした。

2003.12.22


38年間、お付き合いしている長野市戸隠の森の喫茶店です。


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