「ちりとてちん」?
実は落語の演目です。三味線の音色から取られた“微妙な”食材(?)「ちりとてちん」。
噺家の目から見た“食”の話題を取り上げてもらいます。さて、どんな話が飛び出すのやら・・・

 

「2023年、アフターコロナのエトセトラを報告?します 10月篇」

 

 清八でございます。11月8日は立冬でしたが、この日、旧暦では9月25日なんです。夏が長くて秋が短い年なんですね。さて、毎月、「食」関する書籍・漫画・DVDなど、主に中古品を探しては買い求め、読んだり、観たりして学習しております。

それでは、10月分を報告させていただきます。

 

■「日本一ふつうで美味しい植野食堂 by dancyu 公式レシピブック vol.2」プレジデント社
(2022.9.26)中古本

 2020年からBSフジで放送されている同番組は、私がおそらく最初から全編見続けている番組です。都内の食堂、居酒屋、町中華など、毎日でも通いたいお店の旨い一品を編集長の植野広生さんが実際につくって、レシピを公開していただける番組です。この公式レシピブックでは、「炒めもの」「たまご料理」「肉料理」「挽き肉料理」「揚げ物」「煮込み料理・カレー」「魚介料理」「野菜料理」「麺料理・パスタ」「ごはんもの」「粉もの・豆腐・パン・スイーツ」に分けられ、90品、90店のレシピが掲載されています。16頁の東京・南千住の居酒屋「遠州屋高尾」さんの「にら玉」は、にらと卵を別々に炒める独特のスタイルで、卵をラードでオムレツ状に焼き、同じ鍋でにらを炒めて、にらの上にオムレツを乗せます。34頁の神奈川・横浜の居酒屋「常盤木」さんの「ネギチャーシュー」は、自家製チャーシューを細切りにしてねぎと塩とラー油で合えたものですが、チャーシューの味付けに海鮮醤・醤油・砂糖に食紅を加えて冷蔵庫で一晩、タレを落としてからオーブンで焼いてから蜂蜜を塗って常温でさます、という手間がかけられています。食する際には、海苔巻きスタイルもありました。43頁の東京・阿佐谷の「蒲重蒲鉾店」では、おでん種と共に総菜があれこれ。そのうちの「いわしの竜田揚げ」なんですが、新鮮なイワシを三枚におろし、青しそを手のひらでたたき、イワシで巻いて串を刺して薄い衣をつけた揚げたものです。これは、酒の友になりますね。65頁の東京・代田橋の鮭料理専門店「しゃけ小島」さんの「鮭バター焼き」は、オリーブオイルで強めに焼いた鮭に、バターソース(醤油)をかけるやり方です。71頁の東京・吉祥寺の魚料理店「里の宿」さんの「かぼちゃの煮物」ですが、固すぎず煮崩れしないように、面取りして、ところどころの皮をむいておいてから煮るという方法でした。

 こうした家庭でもつくれる「ふつうの一品」、なかなか出会えるお店は少ないものです。(画像①)

 


(画像①日本一ふつうで美味しい植野食堂)

 

 

■「椎名誠著 飲んだら、酔うたら」だいわ文庫
(2023.4.15)中古文庫本

 講談社より2014年5月に刊行された「酔うために地球はぐるぐるまわってる」を改題した出版された文庫本です。椎名誠の著作は、出版された単行本、文庫本を合わせれば90%位は読んできて、蔵書にしてあります。何十年前か、ビールの美味しい飲み方とか、瓶ビールと缶ビールの違いとか、世界にはいろんなビールがあるとか、とにかくビールについての著作が多かったのを覚えています。この本は「極上の酒エッセイ」でした。

 25から28頁の「盗んだビールのコマーシャル」では、「…その最初のCMの撮影は徳之島で行われた。ぼくがバカ面をしていると後ろからノラネコがやってきてぼくの釣った魚を持っていってしまう、というエピソードだった。夏の放映にあわせるから撮影は二月だ。Tシャツ一枚のぼくは朝から撮影のため堤防の突端にすわり海風にフルエタ。それでもビールをおいしそうに飲むしかない。はやく終わらせたかったが、近頃のネコは甘やかされているので、ちゃんと焼いたり煮つけされているサカナでないとなかなか関心を示さず、生かじりしないのだ。ネコは脚本を読まないからねえ。結局三十秒のCM撮影に一週間かかった。…」

 240から241頁の「宮古島とロシアの共通点」では、「…この宮古島の『おとうり』そっくりのことをしているのがロシアの外国人を招いたときなどの正式な宴席だ。まず最初に乾杯する人が立ち上がってスピーチをする。短くてウィットに富んでいるのが喜ばれる。そうして最後に『世界平和のために』と結んで一同乾杯をする。飲んでいるのは当然『ウオッカ』だ。ロシア人は『ウオトカ』と発音する。これも五十度近かったりするから『飲む』というより口の中にほうり投げる、というほうが正確だ。のんだらトマトをがぶり。宮古島と同じように続いて隣の人が立ち上がり、スピーチして乾杯。かならず最後は『世界平和のために』で結ぶ。ぼくはこれに参加したことがあり、最後にはぶったおれた。『ウオッカ』は腰にくるのである。世界平和よりも身の安全をまず考えたほうがいいのだ。…」

 もう30年前ですが、ベルギービールを飲みに、ベルギーへ通っていた頃、現地のビアカフェのカウンターで、お隣の現地のビール愛好家が飲まれていたのと同じのを頼みました。日本のビールとも日本国内で飲んだことのあるビールとは全然違っていて、美味しかったので、もう一杯頼んだら、「日本人は、二杯まで」と言われました。現地ガイドに聞いたら、それ以上飲んだらホテルに帰れなくなるからと説明してくれました。何と、アルコール度数12%のビールでした。いろいろなカフェでいろいろなビールをいただいたのですが、肝臓機能が日本人とは違っているのだそうです。(画像②)

 

 


(画像②飲んだら、酔うたら)

 

 

■「和田はつ子著 料理人季蔵捕物控 団十郎菓子」ハルキ文庫
(2021.12.18)中古文庫本

 先月に続いて、「料理人季蔵捕物控」シリーズの新刊を購入出来ました。7~61頁の第一話「干し牡蠣」では、「干し牡蠣」のレシピが書かれていました。「…まずは殻から外した牡蠣を大根おろしの中に入れて、掻き混ぜてよく汚れを落とします。その後、水で洗い、徹底して水気を拭ってください。これを竹串に四個から五個ずつ刺します。そして風通しのいいところで半日ほど陰干しします。中が半生ですので火にかけるとちょうどいい按配になります」。この篇には「干し牡蠣の京風朴葉焼き」という一品が登場するのです。「…これは水で戻した朴葉に干し牡蠣と春菊白味噌を重ね盛った上に春菊の葉を飾り、七輪に載せた丸網で焼いて供する。ちなみに京風を醸す春菊白味噌は、平たい鉄鍋に油をひいて小さく切った春菊の葉を炒めて水気を飛ばし、混ぜておいた白味噌、味醂、砂糖を加えて絡ませて拵える。」

 私が生まれ育った、南浜名湖の湖西市新居町では、子供の頃は生牡蠣、牡蠣鍋、牡蠣の天ぷら、牡蠣フライが日常であったので、この「干し牡蠣」は知りません。ネットで調べてみると、牡蠣の生産地では、保存用に加工して食されているようです。今度、機会があったら食してみたいです。(画像③)

 


(画像③団十郎菓子)

 

 

■「妹尾河童著 河童のタクワンまるかじり歩き」文春文庫
(1992.12.10) 中古文庫本

 朝日新聞社より1983年4月に刊行された単行本の文庫版です。この本は、タクワンの研究家でもある妹尾河童さんの「タクワンを訪ねる旅」本なんですが、表紙には「書店さんへのお願い。これはタクアンの漬け方を書いた本ではありませんので、食べ物の本のコーナーに並べないで下さい。」とありました。

 9から22頁の「安眠できない沢庵和尚」に、沢庵和尚とタクワンの由来が書かれていました。東京都品川区品川三丁目の東海寺の御住職によると「…はじめは名もない漬物だったようです。大徳寺の住職だった禅師が、幕府の行政に抗議したことから出羽の国(山形県)の上山に追放されたんですね。寛永六年といいますから、1629年に当たります。その流刑地にあったとき、農家の人たちに塩と米糠を使った貯蔵食の大根漬けを教えたということです。四年後な許されて、その後は徳川三代将軍家光公に重用され、寛永十六年(1639年)に東海寺開山を命じられて、この場所に寺を建立したわけです。沢庵禅師はここでも大根を漬けていたようです。その頃は、塩と糠だけでなく、砂も混ぜていたと思われます。というのは、禅寺の中にはいまでも、砂を入れて漬け込む所がありますから…。ある日この東海寺へ家光公が来られた。そのとき供した『大根漬け』に将軍はいたく感激され”美味じゃ、これをなんという?なに、名もなきものと? されば『沢庵漬け』と呼ぶべし”といわれたとか……」

 23から36頁の「刑務所の二十五グラム」には、網走刑務所の朝食に出されるタクアンについてのレポートでした。どこの刑務所でも食事への配慮として分量を均等にするよう決められていて、タクワンは一人分二十五グラムとのことです。昔から「食い物のうらみはこわい」ということです。農場の処遇係長の説明では「…漬物にはやはり、木の樽の方がいいようです。コンクリートはあくが出ます。十一月上旬頃までに収穫した青首大根を、本漬けの前に塩で荒漬けをします。その時の塩は大根三千キロ(約三千本)に対し六十キロ。昔は大根を干していましたが、なにしろ量が多いので、現在はそれに代わる方法として、塩で漬ける”一押し”で、水分を出しているわけです。約二週間すると、多量の水が樽からあふれ出てきます。その時食べてみて、”本漬け”の塩の加減をします。本漬けの塩は九十キロ。糠も同量の九十キロです。…これが、昔からの漬け方の記録ですが、私がここにきてから塩の量を二割減らし、反対に糠は五割増やしました。」(画像④)

 


(画像④河童のタクワンまるかじり歩き)

 

 

■「椎名誠著 漂流者は何を食べていたか」新潮社(2021.9.15)中古本
「小説新潮 2019.3 何。食べよっか?」新潮社(2019.2.22)中古本

 「小説新潮」2019年3月号から2020年8月号に連載された「漂流者は何を食べたか」の単行本。「漂流記マニア」と自称されている椎名誠さんが23篇の「漂流記」から漂流者たちの食事事情をまとめられていた。

 13~35頁の「夫婦や家族はどう生き延びたか」のうち「荒海からの生還」(朝日新聞社)では、1971年イギリスの家族がパナマからヨットで出航し、シャチに襲われて漂流する。漂流三十八日目に日本のマグロ漁船に救出されるまで、トビウオ、ウミガメ、シイラ、サメなどを捕獲して口に入れている。「…ぼくがこの漂流記でもっとも衝撃的感動したことといったら、みんなの体調を管理しているもと助産婦のリンが、採取したけれど飲料には難しい水を使ってみんなに浣腸をするエピソードだった。飲めない水ならば浣腸して腸から水分を吸収させよう、という発想だった。彼らの乏しい備品のなかにある空気注入用の(ほら、現代の日本にある家庭用の子供プールで使うような)簡易ポンプで肛門から空気ではなく口からは飲めない水を体内に注入する、という応用対処をする。それは素晴らしい発想と行動だった。…」

 37~58頁の「大海原の小さなレストラン」は、1989年、ニュージーランド沖でトリマランという三胴船が小さな嵐により転覆した。船長含め4人にケガはなかったが、船全体がひっくり返ってしまった。出航して六日目に船底近くに穴をあけて外へ出る。船自体は沈まなかったので、キャビン内に残っていた食料を潜水を繰り返しては食べていた。「…ジョン船長はたびたび新しい食料探索のためにキャビン内を潜水し、まだあけていないロッカーなどからキウイフルーツをとりあえず必要なぶん(四個)をもって浮上してきた。これらはまだ在庫があり、ジョンは全員のビタミン不足を補うための秘密品とした。この寝床から離れたところにあるロッカーはとにかく潜っていかないと回収できないのでジョンの隠し倉庫とするには都合がよかった。…」

 とにかく、あっという間に読ませていただきました。すさまじい状況に追い込まれた人たちの食糧事情、一読の価値は十二分にあります。(画像⑤、⑥)

 


(画像⑤⑥)

 

 

  10月30日(月)、初めて伊豆市貴僧坊・姫之湯地区に行ってきました。この地区は全く初めてでした。アーツカウンシルしずおか(公益財団法人静岡県文化財団内)の「第2回アートプロジェクト視察研修」に参加したのです。実は、私が理事として務めさせていただいている「NPO新居まちネット」が今年度の「マイクロ・アート・ワーケーション」のホスト側として、10月13日から19日まで、熊本と東京からのクリエイティブ人材3人のお世話をさせていただきました。この事業の目的は「県内各地でクリエイティブ人材が地域の人々と交流することを通じ、自身の表現活動へのインスピレーションを得ていただくこと」でした。クリエイティブ人材の目を通じ、地域の魅力を再発見する趣旨と「わーケーション」を組み合わせたアーツカウンシルの造語です。

 アートプロジェクトは、クリエーターたちが地域住民と交流できる展覧会などを企画、開催することによって、自身の表現活動と共に地域コミュニティの活性化を図る、といった目的でした。2013年に伊豆地方のクリエーターたちによって結成されたアートプロジェクト「Cliff Edge Project-うぶすなの水文学-」による展覧会で2014年から開催されていました。山、森林、森、川、田畑、わさび田、お茶畑、居住地、湾、海と、自然と水のサイクル。このような水の発生、移動、分布を含む多様な水のありようを扱い、科学的に分析する学問を「水文学」というのだそうです。(すいもんがく)で、(みずぶんがく)ではありません。天城山の麓にある貴宗僧坊水神社は、水の神「ミズハノメ」が祀られ、周辺には川や道の重要な箇所に、道祖神や馬頭観音の石仏などが見れました。これらの神々は、土地を守る「産土神(うぶすながみ)」として、先祖代々たいせつに祀られてきた事がわかります。修善寺から貴僧坊地区に向かうバスから見れた山々と森の木々がきれいに管理され、里山の樹木も保全されているように感じられました。バスを降りてから歩いてみると、山からの水おそらく農業用水として使われているだろう細い水路が田畑やわさび田に引き込まれていたり、湧水がわさび田を流れておりました。この水は神々からの贈り物であり、古来、神社を山里の人達が大切にしてきたのだと確信出来ました。帰りのバス車中でタブレット検索してみたら、伊藤市内は「ぐり茶(蒸し製玉緑茶)」の名産地であり、伊豆市内は「わさび」の名産地でした。この名産品の育成に必要な「水」の源流、神として祀り、守ってきたという事がよく理解できたのです。(画像⑦、⑧)

 


(画像⑦⑧伊豆市貴僧坊・姫之湯地区)

 

詳しい現地レポートは、noteに「第2回アートプロジェクト視察研修 Part.1」「第2回アートプロジェクト視察研修 Part.2」として投稿してありますので、ご興味がありましたら読んでみて下さい。

2023.11.22 清八



38年間、お付き合いしている長野市戸隠の森の喫茶店です。


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