「ちりとてちん」?
実は落語の演目です。三味線の音色から取られた“微妙な”食材(?)「ちりとてちん」。
噺家の目から見た“食”の話題を取り上げてもらいます。さて、どんな話が飛び出すのやら・・・

「落語のネタ帳、その17 天狗刺し」

 

 清八でございます。

 地球温暖化で、あれだけ暑かった夏から錦秋のシーズンに移ろうとしています。
秋といえば、行楽の秋、スポーツの秋、読書の秋、学園祭の秋、そして食欲の秋なんですね。暑い時でも寒い時でも、おいしくいただけるのが、すき焼きです。数十年前までは一般家庭では、すき焼きのお肉といえば、鶏肉、豚肉でしたな。牛肉のすき焼きが日本にあるということは知ってても、一生に一回食べられるかどうかというと大げさですが、ご年配の方は同じ思いなのではないでしょうか。

写真はイメージです

 関西では、鴨すき、魚すき、鯨すきとか様々に楽しんできたようです。もう死語になってしまいましたが、京都に噺家さんが定住し、寄席が存在していた頃、「京都落語」というジャンルがありました。京都弁で落語の舞台が京都と想像していただければ結構です。今でも残されているのですが概して珍しい噺が多いです。この「天狗刺し」もその一席なんです。
五条に明治時代までは看板が出ていた物差し屋さんがありまして、西本願寺大谷本廟あたりで採れる竹を使っていたんで「念仏ざし」が商品名となって大評判だった頃のお話なんですが…。

大阪は南の堺筋八幡筋に二間半間口の場所を見つけた喜六が料理屋をやろうと甚兵衛さんに相談に伺いましたな。「天すき屋をやろうと思いまして…」「天すきって何やねん」「天狗のすき焼きでんね」「天狗って、何や」「あんた、知らんか、よぉ絵に描いてありまっしゃろ」「あの、鼻の高い、手に羽団扇持った…」「あれは大天狗っちゅうてね、烏天狗ちゅうのん居てまっしゃろ、くちばしが鳥のくちばしみたいになってて、背中に羽生えてて、牛若丸とチャンバラやって負けるやつ。あれを捕まえてきて、すき焼きにしまんねん」「こら、珍しいな」「そうでっしゃろ、わて流行るやろと思いまんのやがな」「そら流行るわ、わしかていっぺん食いたいがな」「そうでっしゃろ」「そら結構やけど、その烏天狗なぁ、どっから仕入れるねん」「さぁ、それをあんたに相談に来た…」「知らんで、わしゃそんなもん」「今更、知らんてなこと言うてもろたら困るで、あんた。もぉ、手金打って、三日経ったら大工が入って造作に入る…」「だいたい、今の世の中に、天狗が居てるかぇ」「だいたい天狗の本場は、どこだんねん」「本場ちゅうのもおかしいけど、京都の鞍馬やなぁ」「そこ行ったら、今でも居りますか」「奥深い山やさかい、ひょっとしたら居るかもわからんなぁ、生き残りが」「なるほど、あれ捕まえんのん、どぉやったらえぇ」「知らんがな、そんなこと」「やっぱり、トリモチ竿でこぉ刺すのん」「そうや、そうや」「だいたい、天狗は何が好き」「知らんちゅうてんのに、もう忙しいんやさかい、帰ってくれ」
さぁ、この喜六、太い青竹を一本、大きな器にトリモチをどっさり入れて、鞍馬山へやってまいりました。奥の院まで昇りますと、さすがに疲れたもんとみえまして、大きな杉の木の下でトロトロッと寝てしまいました。その日に限り、奥の院で坊さんが夜中の行がございまして、下の宿坊に帰ろうと扉をギギギ〜ッと開けました。さぁ、この音で目を覚ましよった。階をトントントンと降りて来た、この坊さんの着ていました緋の衣という赤い衣が風に 翻ったのが、羽に見えてしまったんですな。
さぁ、災難なんは、この坊さんでして。蔭に隠れて、いきなり飛び出して捕まえてしもた。口には猿轡をかまし、手首のところにトリモチをべったり塗って縄でグルグル巻きにして、青竹でズボ〜ッ。「いやぁ、こないに早う捕まえられるとはありがたい。さぁ、早いこと金網張った鳥屋こしえなあかんがな。天狗の餌は何やろなぁ」ブツブツ言いながら、どんどん山を下ってまいりますと、京の町、もう夜が明けとぉります。どんどんどんどん歩いてまいりますと、向こうの方から大きな青竹を十本ぐらい、担げたやつが歩いて来ます。
「あれっ?油断のならん世の中やなぁ、もぉ真似するやつが現れよったがな。甚兵衛はんが喋ったに違いない。わしゃ一本だけ持って来てんのに、あいつ十本も担げて、ぎょ〜さん捕まえる腹やなぁ。お〜い!竹担げてこっちぃ来るやつぅ〜」「何じゃい、わしのことかぁ〜」「そぉじゃ、お前のこっちゃ…、お前も鞍馬の天狗刺しか?」「いや、わしゃ五条の念仏ざしじゃ」

 10月30日(金)19時30分から田町・稲荷神社で、ゆりの木通り主催「十三夜 お月見の会」に出演させていただきます。くわしくは、「別冊ちりとてちん」をご覧下さい。

2009.10.6

 


38年間、お付き合いしている長野市戸隠の森の喫茶店です。


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