「ちりとてちん」?
実は落語の演目です。三味線の音色から取られた“微妙な”食材(?)「ちりとてちん」。
噺家の目から見た“食”の話題を取り上げてもらいます。さて、どんな話が飛び出すのやら・・・

「落語のネタ帳、その14」

 清八でございます。
視聴率が取れないのか、最近は減ってきましたが、テレビの特別番組で、「大食らい選手権」とか「大食会」というのがありますな。人集め、話題づくり、お店のイベント・キャンペーン、関係者の方の生活もあるとは思いますが、片方では「食育」とか、「食べ残し」「世界食糧難」とか言うてる時代に、考えさせられる事もあるんちゃいますか。

 お暑い時期に、こんなブラックユーモアは、いかがでしょうか。

 今のように扇風機もクーラーも無かった時代、上は甚平、下は褌だけてな格好して縁台で涼んでいるてな光景がありました。ある男が、いつものようにご隠居さんの所へ時間潰しに訪れました。

「お宅は、掃除というものが行き届いてまっしゃろ。庭はすっきりと掃いたぁる。縁先には箒目が入ったぁる、簾が吊ったぁる、風鈴が鳴ってる、金魚が泳いでる。風が通りますわ。うちとはエラい違いですわ。部屋の中はホコリだらけ、お膳は出しっぱなし、布団は万年床、庭には紙屑が放り出したぁる。西日は差し込んでくる。もう、暑うて、暑うて」

 こないぼやいておりますと、ふと、床柱に目がいきました。

「ご隠居はん、こんなきれいな部屋に、なんでんねん、あの吊ったぁる草は」

「えっ、これはエラいものが目に入ったなぁ。あれはな、蛇含草というてな、なんでも大きな山の谷あいに生えている草じゃそうな。こういう山の中には、山の主といわれるような大きな蛇が住んでてな、道に迷うた旅人とか猟師とかを丸呑みにすることもあるのじゃそうな。なんぼ、その蛇が大きいちゅうても腹がぷくっと腫れてのた打ち回って苦しむらしい。その時に谷あいに降りていってこの草をチョイチョイと舐めると、腹の中の人間がたちどころに融けて腹の張った蛇が助かるそうじゃ。蛇が含む草、と書いて蛇含草という。魔除けになるとかいうて、知り合いが持ってきてくれたんじゃ」

 こんな会話がありまして、この草を一房、分けてもらいました。

「それは、そうと、この暑いのに、火鉢に火いおこして、お茶やったら、わたい結構でっせ」

「いやいや、そうやない。親戚で祝い事があってな、餅を仰山もろうてな。いつまでも置いといたらカビが生えてしまうんで、今から焼いておまはんと食べようと思うてな。おまはん、餅好きか」

「わたいはね、餅という言葉を聞いただけで、腹の虫が、食いたい、食いたいって鳴きまんねん」

 これから、売り言葉に買い言葉で、餅箱一杯の餅を全部食べるはめになります。

「ご隠居はん、知りまへんやろ。毎年、京都で大食会ちゅう大食いの大会が開かれまんねん。わたい、その会で幹事をしてまんねん。餅箱ごと焼いて食うわい」

 さぁ、これから食べるわ、食べるわ、勢いというのは恐ろしいものですな。餅箱にあった餅、ぜーんぶ、食べてしもうて、あと二つだけ残りました。カレーライス1キログラムとか、麺5個入りのラーメン、30分で完食したら無料てな、お店があって、体育会系の方がチャレンジするんですが、あと、一口というところでギブ・アップ、ようあることですな。

「どうしたんや。餅、あと二つ残ったぁるで。そないに体揺ったって入らへんで。さぁ、あと二つの餅、さっさと食うてみせい」

「堪忍、あやまる、あやまる、餅が鬼に見える。堪忍して、もう、家へ帰るわ」

 ようようの事、家に帰ったんですが、悔しいのと、苦しいので寝れまへん。そこで、気がついたのが、ご隠居はんから貰うた蛇含草ですな。蛇の腹薬なら人間にもきくやろうと食べてしまいました。

 ご隠居はんが心配になって駆けつけてきます。

「喉まで餅が詰まってて、寝たら、喉がつまって死んでしまうで。大丈夫かいな。わしじゃ、ここを開けなされ、これ、ここを開けなされ」

 シューッと、襖を開けますと、餅が甚平さんを着て座っておりました。

 どないですか。どんなにCGやSFX技術が進もうと絶対に映像化できない落語があるんです。落語って、すごい世界でしょう。

2007.7.24


38年間、お付き合いしている長野市戸隠の森の喫茶店です。


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